ABC(オーストラリア国営ラジオ)

 オーストラリア滞在中はずっとテレビを持っていないので情報はラジオから仕入れていましたが、ラジオ番組にはなかなか良い物があります。いつも聴いているのは NHKにあたる ABCです。好きな番組は平日のお昼過ぎにやっている「時事討論」とでも言った番組で、その時々の国内あるいは国際問題を取り上げ、数人のゲストコメンテーターとあとは聴いている人からの電話で討論を構成していくものです。

 司会者の知識の深さ、さばきかたのうまさ(とんちんかんな事を言ったり問題発言をする人もいる)もさりながら、聴いている人の幅の広さにも驚きます。プラスチック整形が話題の時には性転換者が電話してきて意見を述べたり、エイズの時は患者の発言がちゃんとあり、オーストラリアのミュージカルにオーストラリア人のキャスティングが少ないという話題の時にはイギリス人の役者が電話してきたりと、ちょっと日本では成立しない番組のように思えます。

 他には土曜日の朝2時間にわたってやっている環境関連の番組も面白い物です。日曜日のアジア・レポートも日本が出てくるので聴いています。

 NHKとの決定的な違いは必ずしも中立ではないという事です。ラジオ局の方針というよりは番組の司会者なり製作者(ドキュメンタリー等の場合)が、自分の名と責任において番組を作っているように思えます。どちらかと言えばリベラルな人が多く、私の好みに合っていると言えます。

 番組の影響力も多少はあるようです。メルボルンでビンセント・バン・ゴッホ展をやったのですが、一般公開の前に見たアナウンサーが、主催者に「ゴッホはオランダやフランス印象派の画家の他にも日本の絵画(浮世絵)にも影響されているが、前二者があって浮世絵の展示が無いのはおかしいのではないか?」とラジオで質問していましたが、しばらくして見てきたらちゃんと浮世絵も展示してありました。展示品カタログに載っていないところを見ると、番組の後で急遽加えたようです。

 オーストラリアが日本に比べて得だなあと思うのは、やはり英語圏である事です。英語は事実上世界の共通語ですから、世界中のあちこちの要人に電話インタビューができ、翻訳なしでそのまま流してしまえます。最近日本人の学者や政治家もインタビューを受けていますが、けっこう英語で応えている人が多く、そんなに捨てた物でもないと思えます。英語で話すと曖昧な表現は使いにくいし、さらに言えば英語のできない人の意見は外に伝わりにくいのが事実だろうと思います。

 また社会問題や宗教、教育、家族等と言ったこともよく番組のテーマに組まれますが、やはり白人社会はアジアとは決定的に違うように思えます。なかなか説明するのは難しいですが、なんとなくフロイトの夢判断がなぜああなったのか(日本人にはちょっとピンと来ないと思いますが)、わかるような気がします。