アボリジニーの土地

 私がオーストラリアのメルボルンに住んでいた頃論議を呼んでいたことに、オーストラリアの先住民であるアボリジニーの土地に関する権利をどうするか、というものがありました。国有地ではアボリジニーの権利を認め、代償を支払うか、あるいは彼らの土地として認めようという動きがありました。

 ところがもともと狩猟採取を糧としていたアボリジニーは広大な面積の権利を主張し、一つの州の半分にも及んでいるケースがあるそうです。これが認められるかどうかは別として、アボリジニーの権利を認めることによって不利益を被るのが林業や鉱業です。これらは国有地内の権利を買って木を切ったり、鉱物を掘ったりしています。アボリジニーはありのままの土地と自然を神聖視しています。したがって彼らの権利が認められると国有地内での事業の実施が認められなくなる可能性が高いわけです。

 アボリジニーと一言で言っても広いオーストラリアのことですから、多くの言語を異にするグループがあります。複数のグループが一つの土地の権利を主張して対立している例もあるようです。アボリジニー同士の戦争も昔あったようですし、決して一枚岩ではないわけですね。

 また絶滅したタスマニアのアボリジニーに対する虐殺があったかどうかが議論を呼び、「病気が原因だ」「あれを虐殺と呼ばないならば、一体何が虐殺なんだ!」と大いにもめています。自分たちや自分たちの先祖がした過ちを認めたがらないグループはどこの国にもいるもののようです。

 アボリジニーの土地問題を真剣に議論するということは、アイヌや他の人たちが存在するにもかかわらず、政治的にいつのまにやら「単一民族」の国にされてしまっている日本では考えられない先進性だと思います。少なくともオーストラリアは問題を隠したりせず、堂々と議論できる国のようです。解決に結びつくかどうかはもちろん別ですが。