木を見て牛を見ず

 先日日本から文部省の予算で大学の先生がメルボルンを訪問されました。この先生は土壌が専門で、しきりに、造林地の中に牛を入れるのは(オーストラリアではよくある)土を踏み固めるので木に良くないと力説してみえました。

 確かにその通りですが、ではオーストラリアの人が牛を入れるのを止めるかといったら絶対にあり得ません。なぜなら造林地に牛を入れているのではなく、牧場の中に木を植えているからです。「木を見て牛を見ず」という諺は多分ありませんが、この先生は何のために木が植わっているのかを知らずに議論していたようです。

 前にも書きましたが、オーストラリアでは牧場にするため木をかなり切ってしまいました。しかし牛を開けた牧場で飼うよりも木を植えた方が風や直射日光を遮ることになり、牛や羊のストレスが減り、生産性が上がります。また木は地下水位を低く抑え塩害を防いでくれます(地下水に塩分が含まれている)。木が大きくなったら、多少牛のせいで成長が遅れたとしても切って木材やパルプ用材として売ることができます。

 つまり木のおかげで生産性が上がる上に木も収穫できるということです。では木だけ植えたらどうかというと農業ほどにはもうかりません。もしもうかるなら面倒くさい牛や羊なんか止めてみんな木を植えているはずです。牧場に木を植えるというのが総合的に見て最も合理的で生産性が高く、持続的でもあるわけです。